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新しく正会員になられた中野さんのコラムです。

初めて投稿します。

中野文代 菰野在住の建築士です。
最後まで読んでいただけると幸いです。
では、ハジマリ、ハジマリ・・・・。

2015年9月 秋晴れ
ある日の午前中に
のんびりした町で竣工直前物件を見学した。

木造2階建ての新築住宅、延面約70坪
屋根:平瓦 黒
外壁:窯業系サイディング ベージュ色
基礎、イヌバシリ:モルタル
開口部:アルミサッシュ シャンパン色、
絵にかいたような今風の田舎住宅。
特に感動のないままに中に入る。

ところが、玄関入った瞬間に感動した、
わぁ凄~い!
ホールの格天井が目に飛び込んでくる。
杉柾竿の美しいこと。
竿は銀杏面とり。
どこにも隙がなく、
杉板の縦横に流れる杢目もいい。
高い完成度。
これぞ匠の技。

nakano

他の仕上げも、
それぞれ職人の仕事だと思う仕上がり。
フローリング、巾木、クロス、廻縁、聚楽、
内部建具、キッチン組立、点検口等々。
どれを見ても施工の精度が高く、上質で美しい。
シーリングは薄く、限りなく目立たない。
普通のプラン、普通の仕上げ。
だけど印象に残る新築住宅。

この日の午後、劇場にバレエを見に行った。
上演2時間。バレエは、セリフがない。
ひたすら曲にのせて次々にダンサーが踊る。
鑑賞中、時々午前中の住宅を思い出す。
どうしてこんなに気になるの?

舞台ではプリンシパル(主役)がソロ(一人で)を踊っている。
なめらかな回転、高いジャンプ、正確なステップ、
手、足、背中、首、指先に至るまで
一挙一動を計算しコントロールするさまは、
まさに匠の技。
ソロを踊るダンサーはいつ見ても素晴らしい。
いつも感動させられるのはなぜか?
ソロを踊る自負とそれを裏付ける高い技術と表現力がある。

格天井は、あの新築住宅において言わばプリンシパル。
突出した実力で私を魅了した。
あの存在はソロで成功していると思える。

などと思考している間に、舞台はコールドバレエになる。
コールドとは“その他大勢の踊り”だ。
今日の公演は、スペインの喜劇。
陽気で明るくはじけた感じがよく出ている。
コールドでは、全体の雰囲気を楽しむ。
息の合った群舞やラインダンスの動き、
華やかな衣装が舞台いっぱいに広がる様子は楽しい。

コールドだからと言って、御座なりではない。
丁寧な演出やダンサー個々の能力は、
そのまま作品のレベルにつながる。
2時間の作品のレベルは、
プリンシパルではなく
コールドが決めるのだと考えてみる。

あの住宅で格天井以外の部分はバレエでいうコールド。
これらは大変丁寧に作られ、
誠実な雰囲気に仕上がっている。
これがあの住宅の価値なのだと思える。

「誠実さがこの住宅の軸であり、
この誠実さが格天井を引き立てて印象付ける!」
と思考が行き着いた次第。

では、プリンシパル不在の作品はどう?
とか次々と頭の中を巡り始める。

物想いにふける秋、です。
じゃあ、またね。

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